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線虫【C. elegans (シー・エレガンス)】で早期がん診断:尿1滴で短時間・安価・高精度に

 

カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)

 

一見、高貴なご婦人と勘違いしてしまうような名称だが、実は、人間の為の様々な研究を助けてくれている、小さい小さい生物の名前である。

 

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カエノラブディティス・エレガンス(C・エレガンス)とは、体長約 1ミリで透明な体を持つ線形動物門の一綱で、土壌・淡水・海水中などあらゆる場所に生息し、なかには動物に寄生したり、植物に寄生したりもする糸のようなモデル動物*1である。

人間になじみがあるのは、回虫・ギョウ虫・アニサキスなどの寄生虫だが、その線虫の中の線虫とも言えるのが、C・エレガンス

 

2015年に九州大学の研究グループは、 C. エレガンスを使って、被験者の尿の臭いを利用して早期かつ高精度のがん検診に成功したことを発表した。

広津崇亮助教と伊万里有田共立病院(佐賀県有田町)の園田英人外科医長らの研究チームは、人間の体内に寄生した体長1ミリほどの線虫アニサキスを手術で取り除こうとした際、未発見の胃がん部分に集まっていたことに注目。

これにヒントを得て、犬と同じくらい嗅覚が優れていて、好きな臭いに集まり、嫌いな臭いを避ける習性を持つという線虫C・エレガンスを用意。

がん患者の呼気や尿には特有の臭いがあることが知られているが、実験により、C・エレガンスはがん細胞の臭いを好むことが判明。

 

参照: 線虫で100円がん検査 | 九州大学 理学研究院 理学府 理学部

 

線虫嗅覚テスト(n-nose)の精度 

 

実験ではシャーレに置いた線虫に、がん患者の尿と健康な人の尿242人分を数滴垂らし、それぞれの検体に線虫が示す反応を調べた。

その結果、線虫はがん患者24人の尿のうち23人分(95.8%)に近づき、健康な人の尿218人分では207人分(95.0%)で遠ざかった。

特に感度は圧倒的で、同じ被験者について同時に検査した他の腫瘍マーカーと比べて極めて高い確率だった。

 

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出典:線虫で100円がん検査 | 九州大学 理学研究院 理学府 理学部

 

24人のがん患者のうち、12例はがんの進行度を示すステージが【0】と【1】の早期がんであることから、C・エレガンスは従来のがん検診では見つけにくかった早期がんを発見できる可能性もあることがわかった。

 

 

短時間・安価・高精度

 

・尿サンプルを解析するため苦痛はなく、必要な尿はわずか1滴のみ。

しかも、尿の採取に食事などの特別な条件は定められておらず、通常の健康診断などで採取した尿を使える。

 

・医療機関に行く必要がない。

 

・診断結果が出るまで約1時間半と早い。

 

・1検体あたり数百円で検査でき、機械化されればより安価になり、開発途上国での導入も期待できる。

 

・これまでに調べた10数種類のがんについてすべて検出可能だった。その中には早期発見が難しい膵臓がんも含まれている。

 

 

ノーベル賞製造動物 

 

C・エレガンス研究で、2回にわたり計5名のノーベル賞受賞者が出ている。

研究にはうってつけだった理由は?

 

1.寿命が21日と短く、生から死までの観察が容易

 

2.体長約1mmと小さいので飼育が容易

 

3.全細胞数は1000個以下と極めて少ない(人間は約60兆個)

 

4.体が無色透明などで、顕微鏡で細胞の中までが見える

 

5.遺伝子の数は、人間が23,000個なのに対し、シー・エレガンスは19,000個であり、その約70%はよく似た構造をしている

 

6.大腸菌を餌として飼育が可能(ちなみに大腸菌培養も容易)

 

7.口から肛門に至る消化管がある

 

8.神経、筋肉、消化管、表皮、生殖器といった基本的な組織、器官がある

 

9.匂いを頼りにエサを探す(嗅覚がある)

 

10.痛み刺激に対する反応がある(突っつくと逃げる)

 

つまり、シー・エレガンスは、人間をシンプルにした模型のような動物とも捉えられ、実験によく使われているのです。

線虫を用いたがん診断 「ノーベル賞製造動物とも称される人気者シー・エレガンス」の研究で3回目のノーベル賞?(望月吉彦先生) - ドクターズコラム|healthクリック

 

 

人間の命を脅かす病の発見を、体長わずか1ミリの動物が助けてくれるとは・・・

 

しかし、ガンを早期発見し、完治できたとしても、自分はそこまでして生きる価値があるのか?

いやいや、世のため人のためにネガティブな発想は今はやめておこう。

 

線虫嗅覚テスト(n-nose)が実用化されれば、がん検診受診率の向上と、それによる早期がん発見率の上昇・がんの死亡者数減少・医療費の大幅な削減が見込まれるなど、明るい未来が待っている。

 

*1:生物学、特に分子生物学とその周辺分野において、普遍的な生命現象の研究に用いられる生物のこと。

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