社会人一年生の長女に、今年も高校同窓会の便りが届いた。
同窓会と言っても飲めや歌えの宴会ではなく、どこかの立派な人物をお招きして、『有難いんだか有難くないんだかよく分からないようなお話を聞きながら、お食事しましょ』みたいな会らしい。
当然、わが家の娘は金を払ってまでそういった催しには出席するはずがない。
菓子をボリボリ食べながら、ゲームに夢中になっている彼女にハガキを見せたところで、『ふっ、また来たか』で終わり。
年齢は成人だが中身はまだまだ子供。
こんなんで社会人としてやっていけているのかしら?と思いつつ、目の前の彼女を眺めていたら、今より少しかわいくて繊細だった頃を思いだした。
わが家の長女は、休日などずっと家にいる時でさえ、滅多におでこを出さなかった。
それがある日、外出から帰ってきた彼女におかえりを言ったのと同時に、何か狐につままれたような違和感がある。
あれっ⁉︎と心の中でつぶやいた。
おでこが少し見えていたのである。
出典:けいおん!! 21話 卒業アルバム
というのも中学生の頃から、眉毛が隠れるくらいの位置で、きっちりと揃っていた前髪。髪をしばろうがおろしていようが、前髪だけは譲れなかったらしく、まさに鉄壁の守りだった。
長女の前髪を自分がふざけて不意にさっと横分けにしても、それと同時の速度でささっと元に戻す長女の秘技。
その仕草がかわいくておかしくて仕方なかったから、幾度となく繰り返しては笑い転げる悪い母親。
そして、どうしようもない母親の悪ふざけに苛立つことなく冷静に対処する
できた娘。
その鉄壁前髪は、部活道の先生にも「ヘルメット」と呼ばれていたらしいが、そんなことは長女にとってはお構いなしだった。
しかし、その「鉄壁の前髪」が誕生する背景には、同級生に何かしらでからかわれたことが原因の一つであったのは間違いないようだ。親の自分としては『無理やり聞き出してもなぁ』と詳しく聞くことはなかったが。
自称、親バカ王な自分は長女に対し、
『綺麗な肌をしているのだから、隠す必要は何一つないと思う。何がいけないのか自分には分からない』と、しきりに訴えていたのだが、
思春期の彼女には、同級生の言葉の方が響いたんだろうな。
本当に何がいけなかったのだろう?
しかし、高校へ進学してからは過去の呪縛から解かれつつある長女だった。
進学校だけあって、校則はあってないようなもの。
赤っぽくなったり、茶色くなったり、真っ黒になったりと大忙しの髪。
眉毛も試行錯誤を繰り返し、色々な長さや太さになった。
手入れをしすぎた眉毛がほぼなかった時には、周りの者たちが引きはしないかと物凄く不安だった。
たかが眉毛で、またあの前髪が復活してしまっては元も子もない。
ここは親の責任として、黙って見守っているだけが能ではない。
ビシッと言わなければ・・・
しかし、またやたらと言いすぎて気にするのもかわいそうなのでほとんどは黙っていた。
でも、自分の顔がニヤついているのがわかると長女が
『どうせ眉毛描くんだからいいの。』と一言。
そして、近くで聞いていた母も、
『全然おかしくないよ。』と孫を援護。
当の自分はというと、昔から化粧というものにあまり興味がない。
学生時代を思い出しても、友達は美容や化粧品とかそんな話題ばかりだったけれど、無頓着は自分は話しを合わせるだけで精一杯だった。
どうせ落とさなければならないものを、なぜするのか?
とりあえず社会人の礼儀として仕事の時は化粧をするが、その疑問は今も消えていない。
しかし日々、少しでもきれいになろうと楽しそうにおしゃれをしている娘に、あまり努力しない自分が口を挟むのはやっぱり良くないと思った。
若いって素晴らしい。
寝ている長女を静かに見守る 左:うるてぃも(雄) 右:もるぞふ(雌)